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はじめ通信10−0903
堀船水害は何故再発したか(シリーズ5)


河川内の構造物を軽視しすぎていないか

●8月18日、石神井川の水害現場を、急きょ「東京災害対策連絡会」(災対連)の方がたが視察しました。
 築地市場の豊洲移転問題で、土壌汚染の実態をめぐって都の官僚側に味方する名うての学者を相手に大活躍している坂巻さんをはじめ、住宅・まちづくりコープで住民本位の土木・建築の専門家、千代崎さんなど、専門家集団が現場を見て、口をそろえて指摘したのが、川の中のあまりに多い構造物が、あのものすごい濁流の中で影響しなかったはずが無いという点でした。
<右の写真は溝田橋直近の河川内の構造物>
●首都高速株式会社も東京都も、石神井川の護岸は、50ミリ降雨対応は完成しており、その範囲内の降雨による水害は防止できるはずだが、それ以上の豪雨に対処できるような「75ミリ対応」や「100ミリ対応」には莫大な費用がかかり、都内で50ミリ対応が未完成の現状では、石神井川だけグレードアップするのは現状では困難だと弁明します。

●この説明には、災害の実態より、予算範囲におさまる程度の行政計画や、都内全域の一律平等主義にこだわる官僚主義の問題がありありです。しかし一旦完成した「50ミリ対応」を、行政自身が後退させているとしたらどうでしょうか。
 つまり高速道路工事を効率よく進めるために、国土交通省が厳しく規制している河川の流れを阻害する構造物を異常なまでに多用して、河川の安全性を実質的に「50ミリ対応」以下のレベルに落とすような工事を行っているとすれば、これは人為的に水害の危険を生み出した新たな人災としてとらえなければなりません。

●私は、堀船の溢水地点付近の構造物の影響について、専門家のアドバイスをもとに、しろうとなりの考察を試みました。
 かなり思い切った仮説にもとづく試算ですが、これによると50ミリ降雨の水流でも、溝田橋下流の300メートルにわたる障害物群の影響で、一帯の水位が16センチ程度上昇する可能性があるとの結論を得ましたので、各専門家に送らせていただきました。
 以下にその全文を紹介します。
<下の写真は新柳橋そばの、都の工事桟橋とその看板。水害のない川づくりは良いが構造物が巨大すぎないか>

















 <石神井川溝田橋下流における河川内構造物による水面上昇効果についての考察>

(1)考察の契機

 7月5日夜に北区堀船を襲った石神井川の大規模な溢水による水害は、首都高速道路株式会社や東京都の「50ミリ対応を超える想定外の水害」との弁明にもかかわらず、被害住民をはじめ専門家からも“人災“の側面が強いとの意見・批判が繰り返し出されています。

 人災とする根拠の一つとして、8月18日に現地視察を行った「東京災対連」のメンバーが現場を見て指摘したのが河川内の構造物でした。

 実際、溝田橋付近を含めて石神井川の河川付け替え工事に伴う大規模な工事用の杭や桟橋、新たな水路の遮蔽扉などが随所に打ち込まれて川幅を縮めています。

 このうち最大規模は、溝田橋から300メートルほど下流、新柳橋のすぐ横に据えられた、東京都による護岸工事用の仮設桟橋です。横幅は川の半分以上を占め、長さは70メートルに及び、大型クレーンを乗せた桟橋を支える支持杭の鋼材はおそらく50本は下らないと思われます。
 これらの構造物が、どの程度水害の原因となりうるのか、これまで明らかになっているデータを基に考えてみました。

(2)都と専門家の評価のくいちがい

 7月30日の住民説明会でも、これらの構造物に関して住民から疑問の声が相次ぎましたが、都の説明では、新柳橋付近の桟橋は、それが水害に及ぼす影響について、模型実験ではなくコンピュータ計算によるシミュレーションを行い、50ミリ降雨に対応する安全性は確認されているということでした。

 私も同行して7月19日に現地を観た専門家のK氏によると、一般的に河川内の杭など構造物の影響は直近の水面に限られ、例えば太さ1メートルの柱が立っていた場合、影響は左右それぞれ3メートル程度までだということでした。おそらく都のシミュレーションも、この最小限の範囲の影響力を計算したものと思われます。

 しかし説明会では地元住民や企業から、溝田橋付近ではJT倉庫付近以外にもあちこちで溢水が起きたのに比べ、新柳橋より下流で殆ど水があふれなかったのは工事用桟橋の影響ではないかという主旨の、注目すべき発言もありました。

 8月18日の、東京災対連の専門家による現地調査でも、ほぼ全員が、この桟橋を含む河川内の構造物が溢水に影響した可能性が高いと強調しました。

 現場を見た実感と、首都高や都が行ったというシミュレーション結果が大きくくい違っている最大の理由は、「50ミリ降雨による水流」を想定したシミュレーションに対して、7月5日の石神井川流域の降雨がそれを越えていたことが要因なのは事実でしょう。
 この点で、行政や工事会社の水害想定自体が、都市型豪雨の実状に全く追いついていない問題は繰り返し指摘されねばなりません。

 しかし私は、問題はそれにとどまらず、首都高と東京都の管理区域の境界が、これら構造物のちょうど中間地点にあるため、それぞれのシミュレーションが、自分の区域外についてきちんと現場の実態を反映していなかった可能性があると感じています。

 水害地点周辺では河川の水路切り換え工事が複雑に進行しており、少し下流の都の工事桟橋も5年前の水害時は存在しませんでした。
 それぞれ自分の工事構造物について調べ、これに区域外のシミュレーションデータを加える程度の試算は行ったとしても、責任区域外まで複合させた構造物全体による影響がシミュレーションされただろうかと疑っています。

 そこで、川の中に長い距離にわたって構造物が多数存在している場合、全体として濁流の中で水位上昇にどんな影響を及ぼすのか、「構造物の影響は小さい」と言われた50ミリ降雨の場合について検証してみました。

(3)考察の前提

 検証の範囲は、溝田橋から新柳橋手前の都の工事用桟橋までの約300メートル、川幅は平均16メートル、水深は溢水地点のAP5・6メートルにAP以下の水深を1メートルとして合計6・6メートルとします。

 都の資料では50ミリ対応で実験した際の石神井川の想定流量は毎秒480トンなので、これを基に流速などを計算します。

 構造物モデルとしては、300メートルの流れの中に太さ50センチの杭が100本、立っていると想定します。(この想定は現地の実態より控えめだと考えています。)

 そして大まかな仮説として、流れがそれぞれの柱にぶつかって上下左右に分かれる水流の半分が垂直方向に作用すると考え、運動エネルギーの半分が水位を持ち上げる位置エネルギーに転化すると仮定して、水面の上昇がどの程度になるかを試算しました。

(4)水流が柱に与える運動エネルギー

@流れの速さを、毎秒480tの水量を川の断面積(川幅×水深)で割って計算する。

480÷(16×6・6)=4・5(m/s)

<川の流速は秒速4・5メートル>

A流れがぶつかる柱の断面積が、川の断面積の何倍かを計算する。

一本が0・5m×6・6mで100本分は330u。川の断面積105uで割ると3・14倍

<100本の構造物の断面積合計は、川の断面積の3・14倍>

B運動エネルギー計算式F=1/2×mv~2にのっとり流れが柱群に与える運動量の合計を計算する。

F=1/2×480×(4・5)~2×3・14=15260t・(m/s)~2

C運動エネルギーの半分が水位上昇に作用する位置エネルギーになった場合、水位は何センチ上がるかを計算する。水位上昇の範囲は300メートルに及ぶ川の水面(面積4800u)とする。

位置エネルギーの計算式F=mGh(Gは重力加速度)に当てはめると、h(水位上昇)=15260÷2÷4800÷9・8(G)=0・16mとなる。

 
 <100本の構造物による溝田橋から新柳橋付近までの水位上昇は16センチ>

(5)結論


 7月5日当日は、板橋で100ミリ以上、北区でも70ミリ以上の豪雨があったことから、首都高や都は「溢水は想定外」と決め付けようとしています。また構造物の存在は、水害に直接影響を与えるほどではないとしています。

 しかし当日の河川の状態は、水理模型実験が行われておらず、たとえ模型で実験しても再現しきれない問題があるはずです。

 今回の分析では、都が想定した50ミリ降雨による川の流れが、現場では毎秒480トン、流速が4・5メートルの規模に達し、模型実験やコンピュータでは再現しにくい大きな力が働くことを想定して試算してみました。

 つまり、川の中の構造物にぶつかって跳ね返った運動エネルギーは、普段の流れなら分散してしまいますが、重力落下の半分位のすさまじい流速が1時間以上続くような状況で、あとからあとから濁流がくるため、運動エネルギーの逃げ場がなく、水位上昇に直結すると考えるのは、あながちでたらめとはいえないと思います。

 そう仮定すると、多くの構造物が全体として、溝田橋から新柳橋付近まで300メートルにわたる水面を16センチ程度押し上げ続けるだけの影響が生じていることになります。

 16センチという長さは、20センチの護岸の高さの違いが致命的となった溝田橋周辺では決定的な影響を及ぼすのはご存知のとおりです。

 以上、かなり大胆な仮説ですが、専門家から「川の構造物は水害の一つの要素として推論の価値が十分にある」とのアドバイスをいただいて計算しました。
 多方面の検証をお願いしたいと思います。

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