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2004年6月11日文教委員会
教育ビジョンの報告に対する質疑
憲法も教育基本法も改悪後の教育をねらうもの


○曽根委員 教育ビジョンについて何点かお聞きしておきたいと思います。
 先ほどもどなたかおっしゃいましたが、社会全体の混迷を反映して、それがまた子どもたちにはね返っているという深刻な社会問題が次々起こっています。
 長崎での事件は、ある意味ではその象徴であると思いますが、恐らくそこに至らない広大なすそ野があるということは間違いないと思うんです。それだけ、もちろん学校だけではありませんが、日本と東京の教育は大きな困難を抱えて進んでいるということは、だれもが認めざるを得ない問題だと思います。

◎ビジョンを作るなら深刻な学校の問題解決の方向を示せ

 私、振り返ってみて、八○年代には校内暴力だとか学校の荒れが問題になりました。それが解決しないままに、今度はいじめや不登校が広がってきました。さらにそれがどんどん今、陰湿になって、大人の見えないところで原因が生み出され、深刻化してくるようになったんじゃないかと思うんです。
 今回の事件も、なぜこの事件が起きたのかという原因が非常につかみにくくなっています。
 いじめなどが統計上は減ったような資料が出ていますが、決して楽観はできない。大人がつかまえることのできない世界が子どもの中にたくさん生まれている。
 事件に至る原因や動機、そのすそ野にどういう子どもたちの心理状態があるのか。こういうことを考えますと、事件が起きるたびに、なぜあの普通の子どもがということに、事態が繰り返される可能性があります。

 東京の教育ビジョンをつくる場合、この教育の抱えている困難と正面から向き合って、東京の教育行政の課題を明らかにすることがまず第一の役割だと思います。
 しかし、代表質問でも指摘しましたが、石原知事、並びに現在の都教育委員会によって、教育改革の名で学校や子どもや教員に対する大きな圧力や管理、統制が行われて、大きくゆがめられてきたというふうに私たちは思っております。その中でのビジョン策定ということでは大きな危倶を持たざるを得ないというのが、率直な印象です。
 そこで、幾つか基本的な点と、当面の課題にビジョンはどうこたえているのか、具体的に質問したいと思います。

◎憲法や教育基本法はどこへ行ったのか

 まず、現在の教育の困難、子どもたちの学ぶ意欲の低下とか、不登校など学校離れ、いじめの問題などさまざまな問題が、私は、教育の基本を定めた教育基本法にある、教育は、個人の尊厳を重んじ、人格の完成を目指すという、平たくいえば、子どもを一人の人間として尊重することが、この理念が極めておろそかになって、むしろ今日否定されてきていることが一つの大きな要因ではないかと思いますが、一方では、憲法や教育基本法は国民の権利ばかりで、義務を教えることが足りないとか、家庭教育や日本人の誇りの教育が足りないとか、我慢を教えていないとかいう意見もあります。
 ビジョンはどちらの立場に立っているのかという点では、ビジョン全体を読んでも、教育基本法とか憲法という言葉も出てきません。もはや無視されて、それを前提としない議論が展開されているかのように見えます。私は根拠法についての資料をいただきましたが、そこにも憲法も教育基本法も出てまいりません。
 そこで、お聞きしますけれども、この教育ビジョンの中で憲法と教育基本法はどういう位置づけとなっているのか。このビジョンはもはやそれが改定された後の時代を想定しているのか、お聞きします。

○松田参事 現在、教育基本法につきましては、改正に向けた議論がなされているところでございます。教育ビジョンは、現行法の枠組みにとらわれることなく、中長期的な展望に立って検討したものでございます。
 教育ビジョンの具体化につきましては、教育基本法の改正を前提としているものではございませんけれども、教育基本法の動向につきましては、今後とも注視していきたいと考えております。

○曽根委員 改正前提ではないが、その動向を見ながら先のことも考えてつくったということになりますよね。
 実際、随所に出てくる提言の根拠などを見ますと、教育基本法の中で定められている、国民の総意に基づく憲法やこの法律の理念が本当にないがしろにされているなということを実感します。具体的に幾つかお聞きしていきます。

 まず、このビジョンが、だれのどういう声をもとにつくられているのかということで、随所に提言が出てきますが、その根拠についてお聞きしたいと思うんです。後ろの方に統計資料がありまして、細かくいえば四十五ぐらいの図表が出てくるわけですね。この統計や調査はどのような出所で、どういう機関や団体をもとに拾ったものか、また、そういうものを選んだ観点は何か、お聞きします。

◎財界の声を元に人材づくりを提言

○松田参事 東京都教育ビジョンの策定に当たりましては、検討のための基礎資料を得ることを目的といたしまして、平成十五年三月に、五千人規模の、東京の教育に関する都民意識調査を実施いたしまして、その調査結果をビジョンの策定に活用したところでございます。
 例えば、東京都教育ビジョンの巻末には、資料編といたしまして、ビジョン策定に使用した統計や調査結果などのうち、代表的なものを四十五項目掲載しております。そのうち、教育庁初め東京都各局の資料は二十七項目、都以外の資料は十八項目でございます。また、東京都各局資料のうち、教育庁関係の資料は二十項目、うち、先ほどの都民意識調査から得られた資料は十一項目を活用しております。資料全体のうち約四分の一、東京都関係の資料のうちの四割、教育庁関係の資料のうちでは五割以上が、この都民意識調査が占めているということでございます。

○曽根委員 四十五のうち、このビジョン策定に向けてつくられた調査、これが十一で、四分の一含まれていると。
 しかし、よく見ると、ほぼ同じぐらいの数の経済団体の声が載っているんですね。しかもそれをよくまた見ると、人材育成、どういう人間を教育で育てるのかという部分に集中して財界の声が載せられているわけです。それが根拠となってビジョンの中にいろいろ出てくるわけです。
 とりわけ、最も大事な、教育はどういう人間を育てるべきか、この東京の教育目標について、これは私、三年前に改定された問題については、先日の委員会で申し上げたとおり、憲法と教育基本法を削除して、かわりに日本人の誇りや伝統を重んじるということが入ったわけですね。
 それが都民の声を反映しているんだという根拠づけとして出てくる資料が、このビジョンの後ろの方にあります、21の2、教育のあり方について、東京商工会議所の平成十四年十月の教育の提言なんです。
 私、最初はてっきり、これは東京商工会議所が都民に何かアンケートした結果を載せたものかなと思ったら、そうじゃなくて、これは資料を取り寄せてみたら、教育のあり方についての東商自身の、東商みずからの提言なんですね。
 だから、都民の声を反映しているというのは、東京商工会議所の声を反映しているということなんですよ。しかも、「日本人としての伝統や誇り」というようなニュアンスのことは、こちら(東商の提言)の方には出てきているんですが、上の方の、21の1の方の資料(教育長がビジョン向けに行なった都民アンケート)には出てこないんですね。
 ですから、私、率直にいって、新しく加えた「日本人の誇りや伝統・文化を尊重する」と、これ自体は別に悪いことじゃないですよ。ただ、これを東京の教育目標に入れたことが都民の声に支持されているという根拠は財界の声しかないじゃないかと思うんですが、いかがですか。

○松田参事 教育ビジョンにおきましては、企業等がこれからの教育の担い手または教育の支援者として、これまで以上に期待されると考えております。
 ご指摘の三九ページの資料は、こうした観点から日本・東京商工会議所の提言を参考の事例として挙げたものでございます。

○曽根委員 しかも教育庁自身が行った資料の調査(21の1)、これを私、ちょっとないがしろにしていると思うんですよ。
 というのは、ついさっき気がついたので、事前に指摘をするいとまがなかったんですけ
れども、21の1の資料ですね、これ。こちら(昨年4月のアンケート調査のまとめ報告)に元のグラフがあるんですね。これが全く違っているんですよね。
 というのは、ここに「思いやりのある豊かな心をもった人」というのが七九%というようなことで出ていますよね。これは、こちらの資料でも確かに七九・一。子どものデータを抜かしたというのは問題があると思いますけれども、まあ、大人も企業も七九%ぐらいありますよ。
 ところが、その次に、「社会に貢献しようとする人」が、五七%とか四七・五%という数字がここ(21の1グラフ)には出ているんですけれども、こちら(昨年4月のアンケートまとめ)では、「社会に貢献しようとする人」は一三・五%と一九・五%しかないんですよ。
 次に、「自ら進んで学び考えて行動する人」というのが、ここでは二九・七%、三一・四%になっていますが、こちらでは、上の数字にある五七%と四七・五%が、みずから考え行動する人なんですね。ですから、ここのグラフの項目を取り違えてここに入っているんじゃないかと思うんですよ。しかもその下の数字は、全くこっちに出てこない数字も出てくるんです。

 これはついさっき気がついたばっかりなので、事前にもっと言っておけばよかったと思うんですが、こちら(昨年4月のまとめ)は間違いなくバックデータが書いてありますから、この方が正しいんだと思うんです。それをきちんと、これは都民向けに発表する東京都教育ビジョンに正確に反映することが必要ですから、この部分は調べていただいて、間違いがあれば直ちに訂正をお願いしたいと思いますが、いかがですか。

○松田参事 ただいまご指摘がございました資料についてでございますけれども、改めて調査をいたしまして、もしそこに誤りがあったとすれば、それについては訂正をさせていただきたいと思います。

○曽根委員 私はやっばり、せっかく五千人も調査しているわけですから、そこで出た結果が、東京の教育目標である「日本人の誇り」とか、どうも出てこないというので、こういういいかげんな扱いをしちゃいけないと思うんですよ。それが原因ではないというでしょうけれども。
 私、これだけのことを調査をやりながらこのビジョンに四分の一しか使ってないというのも本当に大きな弱点になってしまうと思いますので、指摘をしておきたいと思います。

◎学習指導要領の問題をどう捉えるか

 それから、もう一つ重要なのは、このビジョンの中で、さすがに世論の影響があると思うんですが、新学習指導要領の実施で、学力不足などが学校現場からも、立場の右左を問わず、各方面から指摘されていることに触れざるを得ませんでした。
 一○ページにそのことが指摘されていて、統計資料でもやはり学力の不足は、新学習指導要領実施後に、不安があるという答えが六割を占めているんです。
 ところが、これにきちんとした論評もないまま、ビジョンでは学習指導要領に従っていくというふうに書かれているわけです。

 東京都は、指導要領による学力不足やその懸念が現実の問題と見ているのか。見ているのであれば、現在の法令にとらわれずに、長期のビジョンとしてそれをどう打開する気なのか。その点についてお何いします。

○近藤指導部長 新学習指導要領は、完全学校週五日制のもと、一人一人の児童生徒の生きる力を育成することをねらいとして改訂されたものでございます。この基本的な考え方に立ちまして、児童生徒に学ぶことの意義を理解させるとともに、みずから学び、みずから考える力などの確かな学力の向上を図ることが大切であると認識しております。

○曽根委員 的確にお答えいただきたいんです。学力不足という指摘があるというふうにここでもはっきり書いてあるんですが、その指摘は当たっている、現実問題であるということを認めるのかどうかについてお聞きしているんです。いかがですか。

○近藤指導部長 曽根委員が学力をどのようにとらえられてお話しされているかははっきりいたしませんけれども、都教委は、学力を知識、技能だけではなく、学ぶ意欲、思考力、判断力、表現力なども含めて学力ととらえておりまして、こうした学力を身につけさせるためには、現行の学習指導要領に基づいて指導することによって身につくものと考えております。

○曽根委員 これ、文科省よりもちょっといただけませんよ。(前)文科大臣、遠山さんだって、学習指導要領そのものは大きな見直しはしませんでしたけれども、そういういろんな指摘があって、「学びのすすめ」を出さなきゃならなかったわけでしょう。家庭学習も必要だと。それから、学習指導要領を超える教科内容をやってもいいというふうにいっているわけですよね。それを文科省の何か官僚答弁みたいな・・宮僚答弁なのか。(笑声)
そういうことをオウム返しに繰り返したら、ちょっとこれは……。だって、私が知っている限り、自民党系のといってはなんだけれども、そういう評論家の方だってみんないっていますよ、これ。このままじゃだめになると、日本の子どもの学力は。そういう問題を、ちょっと余りにも文科省の追随がひど過ぎると思います。

 文科省が、学習指導要領を超える中身も教えてよいということを最近明らかにしたし、一部改訂もありましたよね。こういったものも、今の近藤部長の、運用の中でやれる範囲のものというふうにとらえていて、基本的には学習指導要領路線は変える必要はないということですね。

○近藤指導部長 今回、学習指導要領の一部改訂があったわけでございますが、これにつきましては、いわゆる発展的な学習等につきましては、一部改訂の前の学習指導要領から既に書かれていることでございまして、今回、一部改訂といいますのは、その内容をより詳しく示したということでございますので、先ほど私がお話し申し上げましたように、現在の学習指導要領におきまして、ちまたでいわれております学力不足等、学力低下等については解決できるものと考えているところでございます。

○曽根委員 私は、学校教育に責任を持つ立場として極めて無責任だと思うんです。現実に都民の六割、この統計でも六割が現実に、今進行している学力問題について不安があると。それを国に任せていれば大丈夫だというのでは全くお話にならないと思うんです。
 せっかくビジョンを出しているんですから、東京都として、自治体としてできることがあるはずだというふうに思うし、また全国の経験に学べば、自治体は、その基本である学校の教育条件の改善という立場からいろんな問題に取り組んでいるわけです。
 具体例としては、私たちは前からいっていますが、学級定数の改善というのが今、全国四十二道府県に広がっています。特に低学年で、この学力問題を含めた子どもたちの学校生活を順調に進める上で大きな効果を上げているというふうにいわれているわけです。

◎小学校低学年の学級崩壊問題の解決を

 そこで、、ビジョンにも小学校での小一プロブレムという現象が指摘されています。さっき小一問題というお詰もありましたが、ここでは小一プロブレムというふうに表現されていて、これは私たちも実はこの春の第一回定例会の代表質問で、四十人にちょうどなってしまった小学校一年生の学級が、ちょっと言葉は悪いですが、動物園状態のようになっているということを指摘して、まさに小学校低学年での深刻な事態を指摘しましたが、これはまさにこの間題に当たると思うんです。
 都はどういう問題としてこの小一プロブレムを認識しているのか、また、都内での具体例ばどれぐらい報告されているのかを教えていただきたい。

○近藤指導部長 平成十三年度の小学校における学級経営にかかわる調査によりますと、教室内で勝手な行動をして教師の指導に従わず、授業が成り立たないなど、集団教育の機能が成立しない状況が一定期間継続し、学級担任による通常の手段では問題解決ができなかった学校は、小学校一年生では全都二千九百四十九学級のうち四十三学級、一・五%に当たっております。こうした結果も受けまして、幼児期からの心の教育の重要性や幼稚園、保育所と小学校教育との接続の必要性を認識しているところでございます。

○曽根委員 三千近い学級の中の一・五%と。これは当然ながら学校段階から区市町村を通じて報告されたものだと思います。小学校一年生のクラスの問題ですよね。したがって、つかみ切れていない、これに近い状態も含めると、私は、少なくとも数%、こういう事態が都内に起こっているというふうに思うし、これは二年前のデータになるんですか、したがって、今日ではさらに広がっている可能性があると思うんです。私たちもたくさんそういうことを聞いているんです。
 今、幼児教育との連携も必要だというふうな話があって、これは当然ですけれども、学校としての改善は何よりも学級定数の改善が必要、また、これが決め手というのが全国の道府県の経験です。東京都ではこの学級定数改善、少なくとも小学校低学年については、これはもう待ったなしだということは、検討の阻上にも上っていないんでしょうか。

○山際学務部長 学級編制基準とすべき生活集団である学級につきましては、その規模に定説的な見解はなく、都教育委員会では、児童生徒の社会性を養う観点から、学年を問わず、現行の国の標準でございます四十人としているところでございます。
 一方、児童生徒の確かな学力を育成するために、限りある人材を有効活用して、低学年におきましても、教科等の特性に応じた少人数による指導の拡充を行っているところでございます。

○曽根委員 私、社会性を養うといいながら、実態は、社会性云々の前に、生活集団としてももう崩壊状態か、それに近い状態にあるという現実からどう打開していくのかという、まさに都の教育委員会自身の教育条件、諸条件の改善という、これは教育基本法に定められた基本任務、基本使命を忘れているんじやないかと思うんです。

◎少人数指導には、大きな限界がある

 確かに、少人数指導というのが今行われていて、この中でも少人数指導については、提言の中で、提言の八ですか、「こうした課題を解決するため、算数など、理解に差の生じやすい教科については、一定の学年から、習熟度別の少人数指導を今以上に推進する。」というふうに、少人数指導についてはこういう提言がされています。
 これは少人数指導の問題としてお聞きしたいんですけれども、今、文科省がずっと進めてきた、習熟度別を中心にした少人数指導、今後も進めるというふうになっているんですが、一定の学年からというふうに今回新たな記述が入りました。これは、学習で差が見えにくい小学校の低学年では、とりわけ小一プロブレムのような、生活集団としてさえ崩壊しかねない状態では習熟度別の少人数指導は導入は難しいということが、これは全国的にもいわれているんですが、そのことを反映しているんですか。

○近藤指導部長 教育ビジョンでは、理解の程度や習熟度にばらつきが生じることへの解決策として、これに応じた習熟度別少人数指導の推進について述べているわけでございます。
 一般に、学年進行に伴いまして理解の程度や習熟度の差は大きくなると考えられているため、一定の学年からとしているわけでございますが、教科や学習内容、児童生徒の実態によって異なるものでありまして、学年を特定化するものではございません。

○曽根委員 私たちはやはり、小学校の入学時点での大きな学校の困難というのを問題にしています。ほかの学年や中学校でももちろん学級定数の改善は、それぞれの意味で必要です。
 しかし、習熟度別の少人数指導が、それを推進する立場に立ったとしても、小学校の低学年のように学力の差がまだついていない、まだ生活集団として確立していないという段階でなかなか導入できないということを事実上認めたものとして、私はやっばり新しい指摘だと思うんです。
 改めて、低学年はもちろん、教員の目が少しでもゆきとどくように定数改善に取り組むことが、あらゆる面から見て総合的に改善する教育条件の最大の保障として、私は、先ほどもいいましたが、基本法に基づく都の教育委員会の使命であることを指摘しておきたいと思います。

◎教育の機会均等の課題が厳しく問われている

 もう一つ、先日、指導部長は、とんでもないところで「教育の機会均等」という発言をしました。日の丸・君が代が徹底されていないのは機会均等にもとるというような発言だったと思いますが、現実に今、都の教育で、教育の機会均等ということが厳しく問われているのは何かといえば、私は、夜間の教育など、勤労や障害などでさまざまなハンディを抱える人々への教育の場を確保する課題であると思うんです。
 それが、東京の教育全体を見れば、都立大の夜間が廃止され、さらに夜間定時制高校は縮小され、今後廃止もありとされている。夜間中学の教員は削減をされているなど、次々後退しているように受けとめられています。兵体畔こ、夜間高校、それから夜間中学の縮小、これは私、率直にいえば、憲法、教育基本法の機会均等の精神からの後退だというふうに考えますが、それぞれお答えをいただきたい。

○山際学務部長 中学校夜間学級につきましては、学齢を超過した義務教育未終了者に対する教育の場として設置をしているところでございます。都におきましては、さらに、夜間学級の生徒のうちに中国からの引揚者あるいは外国籍の生徒等、日本語能力が不十分な生徒を対象にいたしまして日本語学級を設置し、日本社会への定着と自立を促進する上で大きな役割を果たしているところでございます。
 夜間中学校に閲しましては、必要な関係法令等の整備等につきまして、第一回の定例会で質疑があり、また答弁をしたところでございますが、国に対して要望していきたい、このように考えております。

○曽根委員 夜間定時制高校については、私も取り上げましたが、国連からも是正勧告が出ています。中学の方は、はっきりいえば東京は確かに全国の先陣を切って、日本語学級も含めてつくってきたわけです。国に制度の創設を求めていくのは当然です。
 しかし、その東京が模範を示しているのではなくて、実質的に教員削減という形で後退させるというのは、やはり断じて認められない話です。
 こうしたさまざまなハンディを抱えた人への教育の場の保障、この問題はこのビジョンの中には全く出てこないわけですけれども、大きな課題としてやはり私は位置づけていくべきだということを指摘しておきたいと思います。

◎ビジョンや教育長の目指すのは、憲法・教育基本法の否定ではないか

 幾つかの問題を見てきましたが、この東京の教育ビジョンには、例えば県段階の教育委員会の権限以外にも、国がこうすべきだとか、福祉や保育などとのかかわりまで展開をしている一方で、肝心の都の教育委員会の最大の使命である、子どもの深刻な現状を打開するために、学校教育を中心に都として教育条件の改善にどう取り組むのか、この点についてほとんど手をつけようとしていないばかりか、例えば中高とか小中の一貫校など、義務教育まで複線化を推進すると。この複線化によって、どっちに子どもをやるかでもってさらに子どもたちの中に競争が強いられるという、そういう方向での改革、括弧つき「改革」になっているという点は大きな問題だと思います。
 そこで、改めて教育長にお聞きしたいんですけれども、教育基本法の改定の方向を、前回の委員会で教育長は支持するとおっしゃいました。それは現行基本法に新しい要素を加えるものだから、それを支持するんだというお話でしたが、率直にいって、ビジョンの中身も、それから都の教育委員会がやっている改革も、個人の尊重という教育基本法の理念ではなくて、むしろ国家の一員としての日本人の誇りを強調するとか、教育の機会均等の精神の後退とか、教育条件の最大の課題である学級定数の改善問題が全く出てこないとか、実質的には教育基本法を否定するという方向を打ち出して進んでいるというふうにいわざるを得琴いと思うんですが、私は、このことをまず率直に現実として、事実として認めるべきだと思いますが、教育長、いかがでしょうか。

○横山教育長 先般も申し上げましたけれども、教育法規を考える場合に、教育基本法だけを取り出して議論しても、私自身は余り意味がないと考えております。現在の教育基本法をめぐるいろんな議論の中で主として行われているのは、教育基本法に新たな要素を加えようという方向での議論をされているわけです。
 しかも、加えるという個々の要素は常に法規性を有すると、これは判例でも確定をしている。学習指導要領の中には既に明記をされている事項なんです。国を愛する心にしろ、国の伝統・文化を尊重する態度にしろ、既に書いてあるわけです。そういったものを加味すれば、今回の教育ビジョンが教育基本法を否定するとか、そういう議論にはならないと私は考えているわけです。
 今回の教育ビジョン、少なくとも東京都の教育行政を批判する立場から見るとそういう見方もできるのかというのが私の率直な感想ですが、今後都教委が進めようとする、あるいは東京都が進めようとする教育の方向性を示したこの教育ビジョンといいますのは、大方の、圧倒的多数の都民の信頼を、支持を得られるものと私は考えております。

○曽根委員 ご自分のやっていることが、そういった教育の法体系というふうにいろいろおっしゃいましたが、指導要領も含めて、限度を超えているのになぜそういうふうなはぐらかしの答弁をするのかというふうに私も思うんです。

◎日の丸君が代の強制は、生徒の人権侵害であり最も避けるべき教育内容への介入

 とりわけ、教育基本法の最大の眼目である、教育は、不当な支配に服することなく、直接国民に責任を負うとされている、このことに今、教育長自身が、「日の丸・君が代」問題で生徒に起立を事実上強要するという形で真っ向から基本法に反することをやろうとしているし、またやってきているという問題ですよ。
 (「もうそれは解決済みだよ」と呼ぶ者あり)
 いや、これは全然解決していません。
 生徒が、思想信条、思想、良心の自由の権利、これは憲法上の権利ですけれども、として君が代の起立斉唱を拒否しても、それはそれで結構とはならない。教育指導上の課題としては不十分だというふうに、認めないわけですよね。まずこの点を確認しておきたいんですけれども、生徒が不起立をしても、都教委の側はこれを是認することはないわけですよね。それは不十分であるということで責任を問うているわけですね。

○近藤指導部長 ここで従来から申し上げておりますように、学校の教員は教育公務員としての身分を有しておりまして、教員は、学習指導要領に基づいて子どもたちに指導する責務があるわけでございます。あくまでも子どもたちに対しては繰り返し繰り返し指導していく、それが教職の務めであると考えているところでございます。

○曽根委員 繰り返し指導するといっても、卒業式は年に一回しかないわけです。その生徒にとってはただの一回の機会なんですよ。その前に先生が仮にどんな指導をしたとしても、生徒自身の自分の意思で起立斉唱を拒否して、しかし、それに対して生徒に責任は問わない。しかし、担任の教員には結果責任を問われるということですよね。そうすると、それを知った生徒は、先生を処分されたり問責されたりしたくなければ立たざるを得ないということになる。これは教育ですか。私は、これはもうまさに教育ではなくて、生徒に対する内心を圧迫する行為であって、教育的な指導ではないと思いますが、いかがですか。

○近藤指導部長 卒業式、入学式におけます国族・国歌の指導は、小学校の一年生から繰り返し繰り返しなされてきているものでございます。したがいまして、高校においても、ぜひ先生方は、小中高の教育の継続、連続性から考えてみまして、ぜひ教職として最後の最後まで指導していただきたいと考えております。

○曽根委員 そういうことを先生に求め続けることが、結局それで求め続けるだけでは済まなくなって、「指導、厳重注意」が始まった。
 今度は、先日の本会議の答弁では、児童生徒を通達に基づいて指導することを盛り込んだ職務命令を出し、厳正に対処すべきという答弁が教育長からありました。
 すると今度は、指導や厳重注意ではなくて、職務命令に基づいて、卒業式だけではなく、ふだんの授業における教育の中身まで職務命令で行わせ、従わなければ、つまりその指導が貢徹されないで子どもが不起立になれば、それは教員の処分の対象、まさしく処分ですね、今度は・・となるということですよね。
 教育長の答弁ですから、教育長自身にお答えいただきたい。

○横山教育長 これはもう見解の相違というしかないと私は思っております。少なくとも学習指導要領、これは高校生でもあるわけで、今、指導部長がいったように、小学校から継続して国旗・国歌の問題については指導しているわけで、私の感覚からいった、例えば四十人いる学級の生徒が国族・国歌の段階ですべて立たないというのは、私は不自然だと思いますよ。一人二人の生徒が内心の自由で云々という話とは違いますので。これが不自然だとすれば、そこに何らかの要因があるんだろう。それについて私どもは言及しているわけでございますので、まさに見解の相違というしかございません。

○曽根委員 見解の相違で処分が出ようとしているんですよ。これは単なる見解の相違で、見方が違うだけですというのでは済まされないんです。
 つまり、今は教員には、どんな指導をしたかではなくて、担任している生徒が立ったか、立たないかだけで結果責任を問われているんですよ。(「そんなことはないでしょう」と呼ぶ者あり)いや、結果責任ですよ。
 みんな結果責任でしょう。だって、まとまって立たなかったところは全部厳重注意などがされているじゃないですか。
 ですから、私は、その原因が教員の側の指導にあるというふうにこじつけたって同じことですよ。
 授業の中身について立ち入って調査し、しかも授業の中身についての職務命令をかけるんですよ。戦後、教育の中でやったことないんです、今までそんなことは。いろいろ教育上の争議がありましたよ。裁判もありました。しかし、授業の中身に職務命令をかけて、教員に「日の丸・君が代」を国旗・国歌として指導させる。その結果、結局子どもが立たなかったとなれば、今度は本当の処分だということで、しかもそれによって生徒が立たざるを得ない、本当に追い詰められて。憲法の思想、良心の自由を侵すだけではなく、学校現場にもろに不当な圧力を加えるという、まさに教育基本法第十条違反そのものだと思いますが、教育長はこの答弁は撤回すべきだと思いますが、いかがですか。

  〔発言する者あり〕

○横山教育長 先ほど申し上げたとおりでございます。撤回するつもりはございません。

○曽根委員 私、今の教育長答弁も、そこに行くまでに何段階かあるかのような、ちょっと不規則発言もありましたけれども、本質的には、職務命令を教育の中身、しかも日常的な授業の中身にまでかけるんだということをいっているのは、これは前代未聞の見解なんです。ですからこれは、それまでにどんな経過があるかという問題ではなくて、教育の行政が行ってはならない、教育のまさに学校の中身、授業の中身に対する支配、介入なんですよ。このことを本当に自覚しなければなりません。
 こんなことがもし東京から始まって全国に広がったらどうなるか、日本の学校は。このことを思うと本当に、このビジョンもそうですけれども、都の教育「改革」の、今やられていること自体が大変な学校教育の破壊をもたらすということをいわなきゃなりません。

 教育ビジョンについても、私、こういう問題を、確かに憲法も教育基本法も一言も書いてないわけですけれども、無視した先でこれがもう完全に反古になっている時代を想定したやり方をやっていく、そういう中身になってきているなということを率直に申し上げなきゃならないと思います。
 東京の教育行政があるべき姿は何かといえば、私は、子どもを中心にして、子どもたちがのびのび学べる学校をつくるために、しかも授業の中身を云々するんじゃなくて、その前に、子どもたちが学べるための諸条件があるわけですから、そこの改善に全力を尽くすというのが本来の教育行政の役割であって、都の教育委員会がそういう正常といいますか、当たり前というか、そういう姿に立ち戻ることを強く求めておきたいと思います。
 以上です。

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