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はじめ通信・子どもと教育のはた4−818

保育を労働施策や子育て支援としてしか観ない行政の限界・・前田正子氏の「子育てしやすい社会」を読む

●今年春に刊行された、「子育てしやすい社会」は、前半の極めて分かりやすく正確なデータに基づく物言いが魅力で一気に読まされました。しかし、保育を「子育て支援策の要だ」と、みごとに言い切っていながら、その保育行政に関して、子どもの発達保障という観点があまりに乏しいのにはびっくり。この観点を抜いて議論すると、ほかの点では的確な分析をしていても、行政全体としては後退せざるを得ないということを痛感させられる一冊です。

●著者の前田正子氏は、60年生まれの40代前半ですが、いまや横浜市の副市長。全国の子ども福祉の先駆といわれてきた自治体のトップに立つ人です。
 経歴も、早稲田の教育学部を卒業後、すぐ松下政経塾に10年勤務した後、ニッセイ研究所にいたり、アメリカの大学院で経営学を学ぶなど、なかなか興味深い人物です。

●この著書は、2002年に慶應大学の博士課程を修了し学位論文としてまとめたものを一部整理して出版したのだそうです。日本の少子化の現状と原因、各分野の説を簡潔に紹介・論評し、少子化対策の要として保育の充実こそ必要だと強調。国内や欧米の保育施策や子育て支援策などを簡潔に紹介してくれます。ここまでは拍手したくなるほどわかりやすく明快です。男性の家事や子育てへの参加の遅れが、封建的慣習への甘えと同時に、家事や子育てに参加が困難な過重な労働実態にあることなど、当然のこととはいえきちんと見ています。

●ところが、いざ保育のあり方になると、いきなり公立保育園の多さが、保育提供のコストを引き上げ、需給バランスの障害になっているとして、民営化を当然の流れとしているのです。では企業参入の実態までつかんでものをいっているかといえば、「あくまで現状のわく内に合わせて、民営化は社会福祉法人によるものとして分析」しているのです。
 行政が、保育の民営化に躍起となっている、その行く先は決して福祉法人化ではなく、営利企業化にあることを知りながら、あえてその問題は避けて通るところが、学位論文としての限界なのか、行政のトップとしての戦略なのか・・・。

●いずれにしても保育における企業経営が本格的に動き出し、東京のように認可外の「認証保育所」などでは、保育士のほとんどが不安定雇用で入れ替わりが激しく、保育料も7万円から10万円程度で高く、保育環境も駅前など便利な反面、高架下に近いなど、かなり厳しい保育水準低下が起きているのですから、保育分野で中途半端な民営化促進論は、やはり有害のそしりを免れないと思います。

●それにしても、少子化の現状や施策展開の全体像については参考になる資料が詰まっている本で、さすが中田市長が副市長に抜擢するだけあって、情報処理能力はたいしたものです。
 この、子どもの発達ぬきの保育行政論を、その意味をきちんと踏まえながら克服していく力を、保育運動は持たなければならないでしょう。

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